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午後の校庭。たくさんの子どもが遊んでいる。
怪我のないように、楽しく遊べるように、神経を集中させて見守っていた。

ふと、声のする方を見ると、5~6人の子どもたちが、
池のある立ち入り禁止領域に入り込み、あろうことかケンカを始めていた。

まず、禁止領域から校庭に戻し、それぞれの言い分を聞くところから始める。
けれども興奮状態の当事者たちは、冷静ではいられない。
罵倒を含んだ怒鳴り声が飛び交い、手や足が出る。
その対応に必死になりつつ、私の耳に、高学年男児の声が聞こえていた。

「まぁまぁ、おばさん」「育成のおばさん」「おばさん、おばさん、おばさん……」

興奮状態の5~6人とは関係ない、ケンカを傍観していた子どものようだった。

男児がふざけて職員をおばさん呼ばわりすることはよくある。普段の私なら、
「失礼ね、お姉さんとお呼び!」「永遠の乙女よん♡」「おばさんじゃないでしょっ!!」
などと返答するのだが、興奮状態の子どもたちを前に、そんな余裕はなかった。

ケンカ騒動が一件落着し、校庭にまた子どもたちの楽しそうな声が響く、穏やかな光景が戻った。
けれど、私の耳には先ほどの、
「まぁまぁおばさん」「育成のおばさん」「おばさん、おばさん、おばさん……」
の声がはっきりと残っていて、落ち着かなかった。

声を発したのが、誰だったのか、顔も学年も名前も、わからなかった。
私は一瞬でも、声のする方を見ることが出来なかったからだ。

男児からすれば、私に無視をされたことになる。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

もしかしたら、ケンカの真相を知っていたのかもしれない。
もしかしたら、ケンカをした子ども同士を、男児が治めようとしてくれたのかもしれない。
もしかしたら、ケンカをした子どもたちを叱らないでって言いたかったのかもしれない。
もしかしたら、あれだけ何回も何回も呼んだのには、ケンカとは関係ない、それなりのわけがあったのかもしれない。
もしかしたら、他の子がいつも言っているような、おふざけだったのかもしれない。

いずれにしても、私はその男児を無視してしまったことにはかわりはない。

育成現場では、何人もの子供に同時に話しかけられたり、
気持ちを切々と訴えられたり、泣かれたり、ケンカが起きたり、
ロケットパンチをくらったり、おままごとのお料理を出されたり、
お買い物かごを持たされてお客になったり、クイズを出されたり、
様々なことが同時に起こって、目がグルングルン回りそうになる。

けれど、状況がどうであれ、私に向かって発せられた言葉や態度には、
どんな言動だろうが、しっかり対応できなければ、教育現場にいる者として、
合格点はもらえない。

【聴く】ことを仕事にしているのに。

〝おばさん先生に無視されて、悲しかった〟

男児の中に、こんな気持ちが残っていないことを願ってやまない。