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手書きにこだわり、水1滴や微妙な風の動きの描写、人の感情を大切にする映画監督兼アニメーターのところに、
IT企業の社長がやってきて、自社のCG技術を見せた。
人工知能で動きを学習させた、人間の形をしたキャラクターが、体をくねくねさせながら、
移動する映像だった。

IT企業の社長は意気揚々と自信満々にプレゼンした。
「これは〝早く移動する〟ことを学習させたやつです。頭を使って移動してるんですけど、
痛覚とかないし、頭が大事という概念がないので、頭を普通の足のように使って移動している。
この動きが気持ち悪いんで、ゾンビゲームの動きに使えるのではないか。こういう人工知能を使うと、
人間が想像できない、気持ち悪い動きができるんじゃないか。こんなことをやっています」

それに対し映画監督兼アニメーターは、
「ハイタッチが難しい障害者の友人のことを思い出して、この映像を面白いと思ってみることはできない。
これを作る人たちは痛みとかそういうものについて何も考えないでやっているでしょう。
極めて不愉快ですよね。
僕はこれを自分たちの仕事とつなげたいとは全然思いません。何か生命に対する侮辱を感じます」

場の空気が凍りついた。こわばった表情で天を仰ぐIT企業の社長。
さらに「どこにたどり着きたいんですか?」との質問に、何も答えられなかった。

人間の形をしたゾンビが不自然にクネクネしているその映像を、
IT企業の社長が得意げに説明する様を見て、私は悲しくて涙ぐんでしまった。

〝頭が大事という概念がない〟には、少なからず衝撃を受けた。

もちろん、CGの中の物体だし、ゾンビゲームの動きに使えるのではないかという実験映像であることは理解できる。
でも、〝頭が大事という概念がない〟という発想が怖かった。
そういう概念で、物を作っていいのか疑問に思った。

子どもの頃から〝地震の時は、とにかく頭を守りなさい〟と言われてきた。
頭がどれほど大事かということを、しっかり教わって育った。
実父は脳出血で脳にダメージを受け、人生の4分1を重度障害で生きた。
脳の損傷が、どれほど危険なことか、イヤというほど見てきた。
だから、今、子どもたちに頭は大事だと教えている。

赤くて温かい血が通っているから喜怒哀楽があって、気持ちが動く心があるのだと思う。

それは機械には無いものだし、どんなに優れた技術でもできないのではないだろうか。

それでも、優れた技術を使って、素晴らしい機械を作る人間は、やはり赤くて温かい血が通っていてほしい。

IT企業の社長は子どもに、頭が大事だということを、どうやって教えているのだろう。

大切な命のおもさを、どれほどわかっているのだろう。

血の通った人間の温かみを、どこまでどれほど理解しているのだろう。

実験用とはいえ、自分が作った制作物に「生命に対する侮辱を感じます」と言われて、
なぜ、何も言えなかったのだろう。